月別アーカイブ: 2013年11月

「僕」  2013年 11月20日 家屋解体の日

今日から僕の解体作業が始まる。
朝、お母さんが来てくれて業者さんに僕の鍵を渡した。
いよいよか・・・  これが現実なんだね・・・
始めは内装から壊すそうだ。また痛い思いをするのか。
2週間ほど解体作業はかかると言われた。
僕は消えていく・・・・・・
僕は今だに納得できない事がある。
この盛土の場所に土留めもいらないと言われ、地盤改良もせず、良好な土地だと言われ、端っこに建てられて震度5強程度の地震で全壊してしまった。
一番大事な地盤調査報告書をなぜ彼らは間違えたのでしょう。
そしてなぜ地盤調査報告書をお父さん達に渡さなかったのでしょう。
もうここから僕の運命は決まっていたのかも知れない。
僕はお母さんに「お別れだね。」って言った。本当はもっと言いたい事がたくさんあったけれども、言葉にならない。でも僕達は言葉に出さなくてもお互い何を伝えあいたいのかはわかっていた。
お母さんはただ涙をながすだけ、泣き虫だなー。

この前のお休みの日にお父さんとお母さんは最後の僕の姿をビデオに撮ったり、写真を撮ったりしてくれた。
「見納めだね。」ってお父さんがポツリと言った。
たとえ姿が消えてしまっても僕はずーと2人の心の中にいるよ。
だから僕の事も忘れないでね。

玄関先での僕達OLYMPUS DIGITAL CAMERAお母さんがお弁当を作ってくれた。
僕のお家で食べる最後の食事。OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「僕」  2013年 11月11日  あの日の事

今日であの日から2年8ヶ月が過ぎた。
今日はあの日この僕のお家で何が起きたのかを書こうと思う。

2011年 3月11日  東日本大震災
その日はお母さんはパートの仕事に出かけていた。
お父さんは夕方からの仕事だった。
お父さんはお昼頃起きて、ご飯を食べてテレビを見ていた。
午後2時30分を過ぎたので、そろそろ仕事に行く準備をしようとしていた時だった。
ゴォ~~と地鳴りがしてカタカタと揺れ出した。
お父さんはまた地震かなっと思ってすぐ収まるのだろうと思ってたらしい。
次の瞬間!想像以上の揺れがお父さんを襲った。今まで体験した事のない揺れがきてダイニングテーブルの下に逃げるのがやっとだった。
僕も何が起こっているのかが分からなく、ただ僕の体が激しく揺れる。
壁掛け時計が飛んでくる。お孫ちゃんの七五三の晴れ姿の写真も飛んでくる。
飾り棚の中に入っていた大切な物、結婚のお祝いに頂いたワイングラス、コーヒーセット、大事な置物も飛んでコナゴナになった。唯一、マリア様の像一体だけが無傷で残った。
キッチンのカップボードに入っている食器類達が騒いでいる。「僕!僕!私達は大丈夫よね、地震が来たら扉がロックされるのよね!?」と聞いてくる。
その時、再び強い揺れがきてロックされて開かないはずの扉がバーーンと開いて食器類達は「キャーキャー」言いながら下に落ちてコナゴナに壊れてしまった。
そして扉が勢いよく扉が閉まった。数枚の食器は残ったがその他は無残な姿になって食器類達は静かになった。またお母さんの大切なオーブンレンジも下に落ちて壊れてしまった。
今度はバキバキという音とともに僕の体に亀裂が入り始めた。
痛さと恐怖で何度か僕は気絶しそうになった。
その時、ラベンダー色のお家のお姉さんの声が聞こえた。
「僕!!しっかりして、頑張って踏ん張るのよ!」
「え!?踏ん張るって?」
「ほら、私の家みたく僕の基礎の下にも杭が入っているだしょう!そこに集中して踏ん張るの!」
「え?僕の基礎の下には何も入って無いよ。」
「そんなはずないでしょう、ちゃんと杭は入って無いの?」
「入って無いよ・・・助けて、お姉さん。」
「なんてこと・・・それでもとにかく踏ん張って!頑張るのよ!」
僕は言われた通りに踏ん張ろうとしたけれども、もう僕の力ではどうしようも出来ない、泣きたくなったけれどもお家の中にはお父さんが動けずにいる。どうにかしてお父さんを助けないと・・・ばかり思った。

お家の中のみんなも一生懸命踏ん張ろうと頑張っていたが、3本扉の引き戸は1階も2階も倒れてしまい出窓の扉は割れて吹っ飛んだ。
「もうダメ~~!」という声が蓄熱暖房機から聞こえると250㎏もある蓄熱暖房機が壁から外れてバーンとお父さんのいる所に迫ってきた。ちょうど、ダイニングテーブルの椅子達がブロックして止めてくれた。
あんなに重いのがお父さんの所に倒れてきたらお父さんは死んじゃう。
僕は「お父さ~ん!」と叫ぶと同時にもう耐えられなくて気絶してしまった。

どの位の時間がたっただろう、どこかで人の声がした。
それは斜め前の奥さんの声だった。
「安齋さん、安齋さん、大丈夫ですか?」ってお父さんの様子を見に来てくれたらしい。
お父さんはその声に誘われるように、やっとダイニングテーブルの下から出てきて玄関へと向かった。
お家がこれだけ壊れているので外の世界はもっと酷いだろう。もうこの世の終わりなのかも知れないと思いおそるおそる外へ出てみた。
でも外の様子は確かに道路は崩れてたり、瓦も落ちているお家もあったけれども、思ったより普通でお父さんはしばらくポカンとして外の景色を見ていた。
お父さんに声をかけてくれた奥さんの家はトイレの壁紙がピリピリと攀じれた程度だったらしい。

僕は体中が痛くて、そーーと目を開けてあたりを見ると、あまりにも酷い僕の壊れ方にもう一度気絶したくなるほどだった。
一番酷いのはお父さんの宝物がいっぱいあった北西の角のオーディオルーム、JBLのスピーカーは無残にも倒れ、マッキントッシュのアンプや真空管も全部すべて倒れ、CD類達が散らばっていた。
20代の頃からコツコツ集めてきたオーディオ類、シアタールームも含めてすべて倒れて壊れてしまった。
もうお父さんは茫然状態・・・・・・この体験が後にフラッシュバックという形でお父さんを襲うようになった。

お母さんはお家から40分ほど離れた本宮市の老舗の食堂でパートとして働いていた。
たしかに揺れは凄かったけれども、築100年以上建っているこの建物は被害もさほどなく、物が倒れるという事は無かった。
奥さんいわく「このお家は石の上に柱が建っているのよ。」って言ってたんだって。
そんな訳でお母さんも僕のお家は震度7まで耐えられるって、この前工務店の方が言ってたのでそんなに被害は無いかなって思って帰宅する事にした。途中、信号が止まってたりしたけれどもなんとか僕のお家にたどり着いた。するとお家の前でお父さんが茫然と立っている姿が見えた。
お父さんはお母さんを見ると「家が・・・家が・・・壊れてしまった。」と言ったきり男泣きになってしまった。
あわててお家の中に入るとお母さんは唖然とした。
「何!?この壊れ方!一体このお家で何があったの!?」と叫ぶ位すべての物が倒れ、壊れて壁にはひびが入り出窓の扉は砕け散ってその他の扉も倒れて足の踏み場も無い状態に何もすることが出来ずにいた。

「僕」  2013年 11月10日  解体の清め祓い

今日は僕の解体の清め祓いの日だ。
朝から天気が悪く、時おり強い雨が降り風が強く吹いている。
まるで僕達の心情を表しているかのようだ。
宮司さんは地鎮祭、新宅祭を執り行ってくれた方。
宮司さんもこんな短期間に地鎮祭、新宅祭、解体の清め祓いを執り行うのは初めてだといって
「さぞ心情は無念でしょうね、私も何と申し上げれば解りませんが立派なお宅ですね。」と言ってくれた。
式が始まるとなぜかお母さんの目からは涙がポロポロあふれた。
おとうさんはその時、走馬灯のようにこのお家に引っ越ししてから今までの事を思い出したんだって。
式も無事に終わり最後に写真を撮ってもらった。
僕の解体もカウントダウンを始めた。OLYMPUS DIGITAL CAMERA僕とお父さんとお母さん

「僕」   2013年  11月  ピカピカになったよ!

僕はピカピカになりました!
あんなに石膏ボードの粉であちこち真っ白だったのも綺麗になりました。
水が無かったので、お母さんはペットボトルに何本もお湯を入れて持ってきて掃除してくれた。
窓ガラスも綺麗になった。
僕が綺麗になった変わりにお母さんの手はボロボロになっちゃった。
「お母さんの執念だね。」って僕が言うと、「へっへっぇー、どうだ!綺麗になったでしょう~。」って一生懸命僕に自慢した。
「何だかまたここに引っ越しできる位になったね。」ってお母さん。
「いやいや、それは無理でしょう。僕はもう家の機能は果たせなくなったんだよ、だから解体されるんでしょう。」って僕。
「それはそうだけどさ・・・そういえば、僕はただ傾いているんじゃないのね。お母さんお掃除していてわかったんだけれども、右にねじれているね。歩くと体が右に曲がっていくのがわかるのよ。」
そう言うと外へ出て北西の角地に立った。なんで北側が11mの高低差があるのに±0の宅地になってたんだろう。なんで西側が26mの高低差があるのに雑木林になってたんだろう。しばらく佇んでいた。
夕日が綺麗だった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

そしてお母さんは僕に家屋解体の清め祓いの日が10日に決まった事を告げた。
「解体の清め祓いって何?」って僕が聞くと、
「建物を解体する時には、その建物に鎮まって守り神となっていた多くの神々に感謝して、この解体工事の無事をお祈りするおまつりなのよ。その中には僕も含まれているのよ。」って教えてくれた。

そうか、僕はこのお家の守り神の1人だったのか・・・・・・OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA