「僕」  2013年 11月11日  あの日の事

今日であの日から2年8ヶ月が過ぎた。
今日はあの日この僕のお家で何が起きたのかを書こうと思う。

2011年 3月11日  東日本大震災
その日はお母さんはパートの仕事に出かけていた。
お父さんは夕方からの仕事だった。
お父さんはお昼頃起きて、ご飯を食べてテレビを見ていた。
午後2時30分を過ぎたので、そろそろ仕事に行く準備をしようとしていた時だった。
ゴォ~~と地鳴りがしてカタカタと揺れ出した。
お父さんはまた地震かなっと思ってすぐ収まるのだろうと思ってたらしい。
次の瞬間!想像以上の揺れがお父さんを襲った。今まで体験した事のない揺れがきてダイニングテーブルの下に逃げるのがやっとだった。
僕も何が起こっているのかが分からなく、ただ僕の体が激しく揺れる。
壁掛け時計が飛んでくる。お孫ちゃんの七五三の晴れ姿の写真も飛んでくる。
飾り棚の中に入っていた大切な物、結婚のお祝いに頂いたワイングラス、コーヒーセット、大事な置物も飛んでコナゴナになった。唯一、マリア様の像一体だけが無傷で残った。
キッチンのカップボードに入っている食器類達が騒いでいる。「僕!僕!私達は大丈夫よね、地震が来たら扉がロックされるのよね!?」と聞いてくる。
その時、再び強い揺れがきてロックされて開かないはずの扉がバーーンと開いて食器類達は「キャーキャー」言いながら下に落ちてコナゴナに壊れてしまった。
そして扉が勢いよく扉が閉まった。数枚の食器は残ったがその他は無残な姿になって食器類達は静かになった。またお母さんの大切なオーブンレンジも下に落ちて壊れてしまった。
今度はバキバキという音とともに僕の体に亀裂が入り始めた。
痛さと恐怖で何度か僕は気絶しそうになった。
その時、ラベンダー色のお家のお姉さんの声が聞こえた。
「僕!!しっかりして、頑張って踏ん張るのよ!」
「え!?踏ん張るって?」
「ほら、私の家みたく僕の基礎の下にも杭が入っているだしょう!そこに集中して踏ん張るの!」
「え?僕の基礎の下には何も入って無いよ。」
「そんなはずないでしょう、ちゃんと杭は入って無いの?」
「入って無いよ・・・助けて、お姉さん。」
「なんてこと・・・それでもとにかく踏ん張って!頑張るのよ!」
僕は言われた通りに踏ん張ろうとしたけれども、もう僕の力ではどうしようも出来ない、泣きたくなったけれどもお家の中にはお父さんが動けずにいる。どうにかしてお父さんを助けないと・・・ばかり思った。

お家の中のみんなも一生懸命踏ん張ろうと頑張っていたが、3本扉の引き戸は1階も2階も倒れてしまい出窓の扉は割れて吹っ飛んだ。
「もうダメ~~!」という声が蓄熱暖房機から聞こえると250㎏もある蓄熱暖房機が壁から外れてバーンとお父さんのいる所に迫ってきた。ちょうど、ダイニングテーブルの椅子達がブロックして止めてくれた。
あんなに重いのがお父さんの所に倒れてきたらお父さんは死んじゃう。
僕は「お父さ~ん!」と叫ぶと同時にもう耐えられなくて気絶してしまった。

どの位の時間がたっただろう、どこかで人の声がした。
それは斜め前の奥さんの声だった。
「安齋さん、安齋さん、大丈夫ですか?」ってお父さんの様子を見に来てくれたらしい。
お父さんはその声に誘われるように、やっとダイニングテーブルの下から出てきて玄関へと向かった。
お家がこれだけ壊れているので外の世界はもっと酷いだろう。もうこの世の終わりなのかも知れないと思いおそるおそる外へ出てみた。
でも外の様子は確かに道路は崩れてたり、瓦も落ちているお家もあったけれども、思ったより普通でお父さんはしばらくポカンとして外の景色を見ていた。
お父さんに声をかけてくれた奥さんの家はトイレの壁紙がピリピリと攀じれた程度だったらしい。

僕は体中が痛くて、そーーと目を開けてあたりを見ると、あまりにも酷い僕の壊れ方にもう一度気絶したくなるほどだった。
一番酷いのはお父さんの宝物がいっぱいあった北西の角のオーディオルーム、JBLのスピーカーは無残にも倒れ、マッキントッシュのアンプや真空管も全部すべて倒れ、CD類達が散らばっていた。
20代の頃からコツコツ集めてきたオーディオ類、シアタールームも含めてすべて倒れて壊れてしまった。
もうお父さんは茫然状態・・・・・・この体験が後にフラッシュバックという形でお父さんを襲うようになった。

お母さんはお家から40分ほど離れた本宮市の老舗の食堂でパートとして働いていた。
たしかに揺れは凄かったけれども、築100年以上建っているこの建物は被害もさほどなく、物が倒れるという事は無かった。
奥さんいわく「このお家は石の上に柱が建っているのよ。」って言ってたんだって。
そんな訳でお母さんも僕のお家は震度7まで耐えられるって、この前工務店の方が言ってたのでそんなに被害は無いかなって思って帰宅する事にした。途中、信号が止まってたりしたけれどもなんとか僕のお家にたどり着いた。するとお家の前でお父さんが茫然と立っている姿が見えた。
お父さんはお母さんを見ると「家が・・・家が・・・壊れてしまった。」と言ったきり男泣きになってしまった。
あわててお家の中に入るとお母さんは唖然とした。
「何!?この壊れ方!一体このお家で何があったの!?」と叫ぶ位すべての物が倒れ、壊れて壁にはひびが入り出窓の扉は砕け散ってその他の扉も倒れて足の踏み場も無い状態に何もすることが出来ずにいた。