「僕」  2013年  8月11日  夏

今年の梅雨は中々明けてはくれず、やっと晴れ間が見える日がやってきたと思ったら猛暑だ。
どこかで、夏祭りのお囃子の音や花火の音が聞こえる。
今日はあの日から2年5ヶ月目の11日だ。

この前の休みの日お父さんとお母さんが久しぶりに来てくれた。
いつものとうり「ただいまー!」って言って家の中に入ってきてくれた。
一通りお家の中をお父さんとお母さんは確認するように一つ、一つ回っている。
いつもお父さんは家に来ると、オーディオルームから中々出てこない。
お部屋を回る時、いつもお母さんは僕を撫でてくれる。
僕を撫でてくれるお母さんの手は温かくて気持ち良い。
でもなんか今日は様子が違う。  久しぶりだから・・・・・・?
お父さんとお母さんは静かに僕に語りはじめた。

「え!?なんて言ったの?かおくかいたいって?」
家屋解体!? 僕は壊されるの?無くなってしまうの?」
お母さんは涙をポロポロ流して「ごめんね。」って僕に言った。
お父さんは涙を必死にこらえているのが分かった。

お母さんは僕を市役所の家屋解体に申し込んでいた。
(家屋解体とは、国の補助事業であり危険な建物等を早急に解体し二次災害等を防ぐのが目的)

お父さんとお母さんは僕が修復できないか、何人もの建築士さん達に見てもらった。
皆一応に首を横に振るだけで無理だと言う。
まして土地もやられてしまっているので、これは解体するしかないと言う。
僕を見て回った後、必ず「福島市の震度はいくつだったのですか?」と聞かれるので、
「震度5強です。」と答えると皆、首をかしげて黙ってしまう。
もうこの場所には戻ってこれない。

そうか、僕はとうとう壊されるのか・・・

本当は知っていた。
だって隣のラベンダー色の綺麗なお姉さんの家は今年、春先解体され更地になった。

このラベンダー色のお姉さんは最初僕が話かけても、子供の相手なんかしてられないわって感じで忙しく働いていた。
だって、お姉さんのお家は5人家族でいつも忙しそうだった。

でもね、東日本大震災の時は僕はお姉さんに励まされた。
ただ何が起きているの解らない僕を「しっかりして! 頑張って!!」って言ってくれ、その後僕の家やお姉さんの家には誰も帰ってこなくなり、僕がシクシクしていると、いつも慰めてくれた。
そして静かにお話してくれ僕は安心した。
お姉さんの家が解体される日、僕はなんと声をかけてよいかわからずにしていると、お姉さんが
「  僕、とうとうお別れの日が来てしまったわ。
私はこの家の家族と出逢えて幸せだった、たった15年ほどだったけれど・・・
本当はこの家の子供達の成長をもっと見たかった、この家のお父さんとお母さんとも、もっと一緒にいたかった。  でも大丈夫よ。
私がいなくなってもきっとこの家の家族の人達は私を忘れないでいてくれると思う。色んな事あったけど心の中でずーと一緒にいてくれると思う。だから僕も僕の家族の方たちは僕を忘れないでくれると思うわ。
忘れないかぎり心の中で私達はいるのよ。」って
そして静かに姿を消した。

僕はとうとう一人ぼっちになってしまった。
そして僕も近いうちに姿を消す事になるのだろうと思った。

お母さんの話では、それでも市役所の人に話をしてくれて待ってもらってたけど、もう期日が迫ってきたと言われてしまった。
僕がいなくなれば証拠が無くなる。
でもこのまま僕が建っていると危険だし解体費用もお父さんの負担になってしまう。
大人の事情なのかも知れないが僕は解るようで解らない。
ただ一つ解っているのは11月頃解体されるという事。

僕はわかってたんだよ、  お母さん・・・
そんなに泣かないで。
だから僕は最近、お母さんのブログをちょと拝借してるの。  そして僕の事書いてるの。
何人の人達がこのブログを見ているかわからないけれども、僕がいた事を忘れないでいてほしい。
たしかに僕がここに建っていた事を忘れないでいてほしい。
あの日、東日本大震災があった日。
津波で家や家族を大切な宝物を失った人々。
原発事故で避難を余儀なくされた人達。
人それぞれ色んなドラマがありまだ終わっていない。
そんな中の大きな出来事の中で僕の事はちっぽけかもしれないけれども・・・
確かに僕はここに建っていた事。たった一年だったけれども
忘れないでいてほしい。

お母さんの涙は止まらず、お父さんまで泣き出してしまった。
お父さんは一言「無念・・・」と言った。
僕はしばらくそっと見守る事にした。

お母さんが顔を上げて僕に語りかけた。
「今まで壊れたままでも頑張って建っていてくれてありがとう。痛かったよね、ごめんね」
と何度も謝る。
「そこでお父さんとも相談したのだけれども、最後に僕がずーとやりたかったバーベキューをしよう!
みんなに来てもらって楽しくワイワイしようね。」

「え~!!本当!?  やったー!
僕もやりたかったんだバーベキュー↑↑  ありがとう!楽しみだなー  ねぇ いつ?いつ?」
「そうねー、10月になって暑さも和らいできたらね。」
「えー、でもトイレも無いし水も出ないよ。」
「大丈夫、お父さんに任せなさい。」とお父さんが言ってくれた。
なかなか頼もしいじゃん! お父さん!
それから僕達はバーベキューパーティーにかんして、ここにこれを置いて、草も刈らなきゃとか
あーでもないこーでもないとお話した。
そしてお父さんとお母さんはアパートに帰っていった。

でも本当は僕のお別れ会なんでしょ?
知っているけれど誰もなにも言わない。

僕がこうしてここに建っていられるのもあとわずか・・・・・・
僕はここにいる。
そして僕の物語は続いていく。