「僕」   2013  7月

今夜も暗くて長い夜がやってきた。
近所のお家では夕飯を用意している音や夕食の良い匂いが立ち込めている。
子供達は夏休みに入ったらしく、にぎやかに家路に帰る笑い声が聞こえる。
だいぶ日が落ちるのも遅くなってきた。
西の空に夕日が沈む。
僕は山々に静かにゆっくり沈む夕日を見るのがお気に入りで大好きだった。
ポツリ ポツリと家々の明かりが灯り始めた。
そろそろ、みんなが帰ってきて一家団欒の時間が始まるのかな。

僕の家には誰も帰ってきてはくれない。
家の中も真っ暗  玄関の明かりもない。
時折、何かしら物音がするので、お父さんとお母さんがやっと帰ってきてくれたと思い
嬉しさよりも「なんで今まで帰ってきてくれなかったの!?僕はずーと一人ぼっちで淋しかったんだよ。」って
泣いてそして甘えようと思って耳をすませるけれども空耳だったのか、玄関の鍵を開ける音は聞こえない。  また静けさと暗闇がもどった。

ここ一か月位お父さんもお母さんも僕に会いに来てくれない。
7月に入って7日に聞き覚えのあるエンジンの音がしたので見てみるとお父さんとお母さんが車で来てくれた。久しぶりに会えるのでワクワクして待ってたのだけれども、車から降りてこないでじーと僕を見つめて行ってしまった。
なぜだろう?  なんで家の中に入ってきてくれなかったんだろう?
ただお母さんの目には涙がいっぱいあって今にもあふれそうだった。
とても悲しそうな顔だった。
どうしたのだろう?

僕はわかっている。  わかっているよ。 もう二度と誰も帰ってきてくれない事。
だって僕は壊れてしまったから・・・
あの日・・・・・・
2011年3月11日 午後2時46分
あの日を境にして僕達 家族の生活は一変してしまった。
僕はまだ1歳の誕生日を迎えたばかりだった。
あの日とは東日本大震災がおきた日だった。