「僕」   2009年  春

僕が意識として生まれたのは何時だったろう。
ずーと前から僕はお父さんとお母さんの頭の中、心の中で漂っていてそれは意識というほどでもなく
ただぼんやりと形にもなってなくてゆらゆらとしてたのではないだろうか。

その頃お父さんとお母さんは結婚してまもなくアパートに住んでいた。
たぶんあれは3月のお彼岸の日で天気も悪く炬燵に入っていてテレビを見ていたらしい。
突然お父さんが「住宅展示場を観に行かない?」とお母さんを誘った。
お母さんは「え~!?こんな雨で天気が悪いのにー」って思ったらしいけど少し興味があったので
行ってみようかと思ったらしい。

住宅展示場はそれはそれは素敵な家々が立ち並び夢のような所だったのよって、あとでお母さんは
僕に教えてくれた。
何軒か見学しているうちにある一軒の家の前で足が止まり、入ってみようかと思いその家に2人で入っていった。

そこで僕に出逢った。僕?正式には僕ではない。
僕の元?  僕の基本形?  よくわからないけれども・・・・・・
とにかく僕にお父さんとお母さんは一目惚れしてしまったらしい。
なんせお父さんはオーディオが趣味で、そのお家にはシアタールームがありおおきなテレビボードもあって
お父さんは釘づけになっていた。
お母さんはキッチンから離れずあちこち扉を開けたり閉めたりのぞいたり忙しそうだった。
そして営業員さんの話を聞く頃にはお父さんは目が輝き、お母さんの目はハート型になっていた。
営業員さんの話にも2人は「ほー」とか「へぇー」とか感心して話を聞いていた。
またこの家の特徴はお母さんの大嫌いな地震にも強く、なんと阪神淡路大震災で一件も全半壊がなかったと聞かされ、改めて「へぇ~」と感心したらしい。
そして帰る時には両手いっぱいのパンフレットを持って顔を紅潮させていた。